トピックス:生理的な反応と不快な感覚の関係
※「あなたにもある心を回復する機能」に掲載しているトピックスをご紹介しています。 |
何かをしようとするとなぜか体が動かなくなってしまったり、思ったことを言おうとすると、なぜか言葉が出なくなってしまったりして思うようにいかずに困ってしまうことがあります。
「やりたいのだからやれば良い」、「思っていることは言えば良い」と考えようとしても、このような状態ではなかなか思うようにいきません。
一般的には、
- 意志が弱い
- 気が弱い
- やる気が足りない
- 根性がない
- 心が弱い
などというように、心の問題だと思われがちです。
でも、そうではありません。
では、心ではどのようなことが起こっているのでしょう?
思い通りに行動できなくなってしまう背後には、これまでの人生の中に、自分の思い通りの行動ができてしまうと、何らかの危険が自分に降りかかってしまうという状況があったはずです。
(これは、子供の頃の家庭の中の状況であることがほとんどです。)
その危機を回避するための条件反射が身つきます。
そんな過去に身につけた条件反射が、自分の意思に反して発動してしまうため意思で自分をコントロールできなくなってしまっているのです。
【例】
子供が悪いことをしたとき、「どうして、そんなことをしちゃったの?」と優しく尋ねても、うつむいて黙ってしまう子供がいます。
これも条件反射が発動している状態です。
たぶん、その子の家庭では、そのようなときに本当の気持ちを言えば、親から責め立てられ追い詰められ、とてもつらい思いをさせられるのです。
家庭では、黙って責められていることが、本当の気持ちを話して責められることから自分を守ることになるのなら、「何も言えなくなる」という条件反射が身につきます。
そして、その条件反射が、家庭外でも発動されてしまい子供はうつむいたまま、何も言えなくなってしまうのです。
危険には、身体的な危険と心理的な危険がありますが、ここからは、心理的な危険を中心に話を進めていきます。
心理的な危険の代表的な例としては、
- 心理的に追い詰められる
- つらい気持ちのまま放置される
- 感情や感覚や考えなどを否定されたり無視されたりする
といったことが挙げられます。
人は、普通、何かが起これば、その都度、
- 状況を把握・分析し、考え、行動する
という流れで対処します。
ただ、そのような過程を経ると、何かに遭遇してから行動を起こすまでの時間は長く掛かります。
緊急度が低い状況では、そのような過程を経ていても問題はありませんがもう二度と直面したくないような緊急度の高い状況では、一刻も早く何らかの対処をすることが求められます。
私たちには、そのような危険を効率的に回避できるように、『学習』という機能が備わっています。
これは分析や思考を短縮し直ちに行動を起こさせるための機能です。
この反応を条件反射といいます。
この学習に基づいて条件反射を起こすことで、過去の経験から予測される危機を効率的に回避できるのです。
私たち人間は、感情に関わる様々な感覚を胸部に感じます。
これは、条件反射的な反応を起こすために、私たちの体に、「胸部にモヤモヤ感を生じさせる仕組み」が備わっているからではないかと考えています。
私たちは、パブロフの犬を代表とする動物実験の条件反射のことはよく知っています。
しかし、条件反射を実現するために、動物の体や心で起こっていることについては、ほとんど理解していません。
それが「自分自身にも当たり前のように起こっている」ということも理解していないように思います。
ですから、条件反射を自分自身が体験したときに、その過程で生じるモヤモヤ感を、条件反射を引き起こすために生じる単純な感覚だと思えずに、
心の問題によって生じることとして、複雑に扱ってしまうのです。
このように考えると、思い通りに行動できずに苦しい気持ちになっているときは、何らかの危険を回避するための条件反射的な反応が起きていると理解することができます。
そして、そのときに感じる心の苦しさは、心に問題があるから生じるのではなく、ただ単に「条件反射は苦しいことだった」というだけのことです。
もっと言えば、心の苦しさのようなものを感じるのは、我々の思考や行動が何かを回避するような条件反射を起こさせる機能が正常に働いている証拠だとさえいえるのです。
次に、そのような状況から解放される流れについて説明します。
これまで説明したように、自分らしく行動できないときに感じる心の苦しさは、条件反射による回避行動を実現するために生じると考えられます。
ですから、その心の苦しさを解消するには、条件反射から解放されれば良いということになります。
条件反射から解放されれば、自分を苦しみでコントロールするのではなく、その時々の状況に合わせた自由な思考によって自分がコントロールできるようになります。
それには、まず、その回避が必要だった過去の環境(多くの場合、家庭での人間関係です)と、そのときに自分に降りかかった身体的・心理的な危険を具体的に認識する必要があります。
そして、今の自分が置かれている環境が、その環境と異なり回避を必要としないことが認識できれば、その条件反射から次第に解放されていきます。
また、現在も回避が必要な環境に置かれていても、他の環境(職場や学校など)をその環境(家庭など)と区別することができるようになれば、他の環境では古い条件反射から解放されていきます。
その原因となっている環境でも、その時々にきちんと思考して行動するようにトレーニングしていけば古い条件反射からは解放されていく可能性はあります。
(ただ、これは難易度は高いと思います。)
ですから、無理をせずに、その環境では、今まで通り、その条件反射を活用するのも一つの方法ですし、その条件反射を強いられる環境から離れるのも解決策の一つです。
このように考えると、今まであらゆるところに影響していた、ワンパターンの条件反射から開放され、時と場合によって、自分の意思でコントロールする余地が生まれます。
書くのは簡単なのですが、いざ実践しようとすると、生理的に反応してしまって、なかなか思うようにいかないこともあります。
そんなときに、自由に考えて行動することを助けてくれるのが、
- 仮に、危険を回避できずにつらい気持ちになってしまったとしても、心を楽で穏やかな状態に回復することができる
と確信し、いつでも実践できるようになっておくことです。
(この方法は「あなたにもある心を回復する機能」の第2部で説明します)